すでに死語に近い言葉ですが、「袖珍本(しゅうちんぼん)」という表現があります。
昔、着物の袖に入れて旅の友にした小ぶりな本のことですが、現代では一般に「文庫本」といわれるものです。
ただし、この「文庫」という表現も誤解されやすいのですが、小さいサイズの本を文庫と呼ぶのは、いわゆる俗称で厳密にはサイズをあらわす表現ではなく、手ごろなシリーズのもの(本)をさす表現です。
現代でも、児童書の「青い鳥文庫」「つばさ文庫」「みらい文庫」などは、大きさでいえば新書サイズの本になります。
また図書館などにある、「○○文庫」といった表現は、個人によるまとまった寄贈本などをさす総称として使われています。
そうしたなかで最近、袖珍本のイメージが復活したような本の良書が刊行されています。
それは、俗に言う小さい大きさの文庫本で、装丁がおしゃれなハードカバーになっているものです。
まさに旅の友として持って歩くにはちょうど良い本です。
古くは詩集の類で以下のような本はありました。
金子みすゞ 童謡全集1,2 『美しい町』 上・下 JULA出版局
金子みすゞ 童謡全集3,4 『空のかあさま』 上・下 JULA出版局
しかし、旅の本といっても現実には、ひとり旅でもない限りなかなかじっくり旅先で本を読めるような場というのは、意外とないものです。
だからこそ、詩集のようなものが選択肢になるのでしょう。
吉野 弘 『二人が睦まじくいるためには』 童話屋
ところが最近、少しその趣きに新しい傾向が加わりました。
文庫サイズであることに加えて、持ち歩くに相応しい耐久性とおしゃれな装丁を意識したような本です。
そのようなタイプの本を以下に紹介させていただきます。
旅といえば、
西行や芭蕉にはじまり、山頭火や若山牧水といった俳人、歌人思い浮かびますが、
まさに、このような人たちこそが、旅の読書の最良の友であるはずです。
群馬の地元では『みなかみ紀行』でも知られる若山牧水の旅の足跡をたどる本が、田畑書店より刊行されました。
正津勉・撰 若山牧水 『歩く人 牧水紀行文撰』田畑書店 本体1,400円+税
人生というロング・トレイルを歌いながら歩き通した男がいた!
旅と酒をこよなく愛した牧水の筆が冴える。 数多くの紀行文から傑作のみを選りすぐったトラベルライティングの決定版
(帯、推薦文より)
若山牧水 『樹木とその葉』田畑書店 本体1,600円+税
初版、大正十四年。幻の名著。
若山牧水 『エッセンシャル牧水 妻が選んだベスト・オブ・牧水』
田畑書店 本体1,200円+税
地元で好評ロングセラーの『みなかみ紀行』も欠かせませんが、確かに従来の文庫本では、持ち歩くほどに角などがよれよれになってきてしまいます。
同じく、群馬にも所縁のある南木佳士の『根に帰る落葉は』田畑書店 (本体1,300円+税)も、詩情あふれるエッセイで、旅の友に最適です。
同じく田畑書店より、こちらはソフトカバーになりますが、丸山健二の3点。
『ラウンド・ミッドナイト 風の言葉』田畑書店 本体2,600円+税
タイトルに惹かれる人も多いでしょうが、エッセイでもなければ小説でもない。詩でもなければアフォリズムでもない。あえて言えば、丸山健二版「聖書」 ーただしそこに神はいない。いるのはあなた自身のみ。(帯、推薦文より)
丸山健二『新編 夏の流れ/河』田畑書店 本体1,700円+税
丸山健二『掌編小説集 人の世界』 田畑書店 本体1,800円+税
デヴィッド・フォスター・ウォレス/阿部重夫訳『THIS IS WATER これは水です』 田畑書店 本体1,400円+税
さらに、持ち歩く辞典を想定したオシャレな本として、以下のようなものがあります。
テキスト:長井史枝 イラスト:川副美紀 『菜の辞典』雷鳥社 本体1,500円+税
森乃おと 『草の辞典 野の花・道の草』 雷鳥社 本体1,500円+税
従来のポケット版の草花図鑑といえば、ビニール装で耐久性をもたせたものがありましたが、それよりもぐっと素敵な装丁で持ち歩くことが楽しくなるような本です。
これらの本のおかげで、旅や外へ出歩くことが、いっそう愉しくなることと思います。 是非、GW や新緑シーズンの旅の友として、これらの本の手触りや装丁デザインをお店で手に取って確かめてみてください。
Comments